※別のところで書いていた読書記録を転載。
実際に読んだのは2022年9月11日くらい。
『人間失格』太宰治
〈恥の多い生涯を送ってきました。〉
〈お互いにあざむき合って、しかもいずれも不思議に何の傷もつかず、あざむき合っている事にさえ気がついていないみたいな、実にあざやかな、それこそ清く明るく朗らかな不信の例が、人間の生活に充満しているように思われます。〉
〈ただ、自分は、女があんなに急に泣き出したりした場合、何か甘いものを手渡してやると、それを食べて機嫌を直すという事だけは、幼い時から、自分の経験に依って知っていました。〉
〈世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。〉
「世間というのは、君じゃないか」
〈互いに軽蔑しながら附き合い、そうして互いに自らをくだらなくして行く、それがこの世の所謂「交友」というものの姿だとするなら、(後略)〉
〈死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ、(後略)〉
こぶしを固く握りながら笑えるか試しちゃう。
女にはスイーツ
という固定観念。いつの時代も変わらなくて笑えた。
『世間』、『交友』の概念が面白かったな。
前者は慧眼。後者は痛烈。
道化からのアル中からのヤク中、からの☓☓
終盤ヒラメと堀木が来てからは、ややホラーな印象だった。審判下されて怖かった。背中が粟立つというか。
解説読んだら本当にこの話は自伝的な作品だった。
太宰治の、一見狂人に思える行動にも本人なりの大義があったようだけど、だがしかしこの主人公にはそんな大義は感じられなかった。ただ己の人間恐怖への対処、逃避でしかないという印象。
それに本文も解説も、極端に一方の人間の性質を醜、一方の人間の性質を美とするのは何だかなぁ。
貶めるものでも美化するものでもないと思う。
エゴやら欺瞞やら無くなればいいとは思うけど、どっちも同じ人間の悲しき性なんだし。
人間みなピュアフルになるのは無理だろう。
まぁ昔の作品だしな。
当時の空気感、人々の心情ってどんなんだったんだろ。
当時の人間として読んだらどんな印象だったんだろ。
解説読んでも実際のところ分からない。
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〈それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れながら、それでいて、人間をどうしても思い切れなかったらしいのです。〉
ということで、かろうじて『人間』につながる手段として道化を演じることにし、
所謂『人間』であろうと(やり過ごそうと)やってきたけど、
結局無自覚ながら、自分かわいいというか、自己愛が大きすぎるというか、自分に甘いというか、多少のプライドも何だかんだあるというか。
な部分も中途半端にあって、だから苦しいのではとおもったり。
結構人を馬鹿にしているし。
アルコールやら薬やら、その場しのぎから中毒になって堕ちすぎだし。
(太宰治本人の理由はともかく、この主人公にはアルコールや薬に手を出す理由に大した思想は見られない。ただの逃げ)。
それに、苦しんでる自分に酔ってる感もある。
手記だと一部の例外を除き基本的にお道化の演技力に自信を持っているみたいだけど、『はしがき』と『あとがき』を書いた『私』には見破られてるというか、ボロクソに言われてる。
自分の性質について開き直る
道化を演じるのを貫き通す
人間への思いを断ち切って隠遁生活
などどこか突き抜けてしまえば楽になっただろうに、
それができずに狭間で苦しんで(一見)破滅の道に進んだのは、人間失格というよりは実に人間臭い。
繊細すぎて弱くて苦しい。
『人間』として当たり前の感覚が分からない(共感できない)。
いたって冷静なのに理解してもらえずにレッテル?を貼られる。
こんな人、現代には、程度の差はあれうようよいる気が…。
所謂世間の感覚と違って、生きにくさを感じてもがいている人。それでも上っ面うまくやってやり過ごしている人。うまくやり過ごせない人。
だから現代では失格という程ではないと思う。これを失格とみなしてたら、失格者だらけやん。
そういう意味では、昔よりは多様性が認められる時代になったのか?
ある意味彼は人間恐怖から解放されたし、ある程度安寧の日々を送れるようになったんだから、波乱万丈の末のほんのりハッピーエンド?
ハッピーエンドって表現は皮肉すぎか。
リアル廃人みたいになっちゃったけど、もうお疲れさまでしたって感じ。彼なりに苦しんで頑張ったよ。
とりあえずそばに人いるし。
一応、最後に「(前略)神様みたいないい子でした」と言ってもらえてるし。
たくさん苦しんでいたけど、その時の自分を肯定してもらえてる。認められている。
かなり面白かったけど、本当に理解するには作品の背景を理解しないとだめな感じでなかなか大変(私は放棄)。
いずれまた読んでみよ。
▼ちょっと『人間失格』に似ているなと思った本。